2015年12月19日土曜日

山に雪

 雪の予報が出ているはずだが、朝起きてみたら陽が射していた。買い物の予定があるので自転車で走るには都合がいい。

 所用を済ませつつ自転車を走らせていると、気になっていた事務所の前に男性がいた。思わず声をかけてみる。その事務所は知的財産に関わる事務所で相談無料となっていたが、四方山話程度で入るのも申し訳ないと思い気後れしていたのだった。
 その男性は紳士的で物腰かな印象だったので声をかけやすかった。立ち話で色々とお話を伺うと、特許や商標に関わる申請を代行してくれるとのこと。実際の申請手続きは東京の本社で行うので受付窓口業務ということだった。地方ということもあって特許に関する申請はあまりないようだが、デザイン関係でシンボルマークやロゴデザインを手がけるのであれば、相談窓口があるというのは心強い。飽くまでも申請手続きと相談ということのようだが、デザインや設計関連と連携して開発まで手がけるのは難しいことなんだろうか。高度な知識や経験を必要とする業務に対応するため専門性が高まった結果、周辺技術や業界との連携が難しくなっているのかも知れない。
 しばらく走ると店先にMacを並べているのが目に入った…でも、看板がない。電光掲示板には「…パソコン修理…」の字が読み取れたので中の人に声をかけてみる。あいにく担当者が不在とのことだったが、パソコン修理を請けていてMacでも大丈夫とのこと。サイトの制作と写真の撮影も請けているという。聞き捨てならないとばかりにお話を伺った。店舗スペースを二人でシェアしているらしくそれぞれに専門分野が分かれているとのこと。写真撮影もスタジオ撮影ではないそうで写真スタジオ特有のストロボや背景セットも見当たらない。代わりパソコン周辺機器を充実させているご様子だった。身近で活動する若きクリエイターの存在は心強い。また立ち寄ることにして店を後にした。
 ほんの30分か1時間程度の出来事だったと思う。大型のショッピングモールが出来たので通る機会が以前より少なくなった駅前通り。なかなか定着することも難しいことかも知れないが、挑戦している人がいると言うことが何だか嬉しかった。
 常々、地方への企業誘致には疑問を持っていた。人口流出に一定の効果はあるかもしれないが、昼夜交替の工場勤務は社会との繋がりを断ち切り生活や暮らしを破壊しているのではないか。下請けに徹する企業が多いため開発等の知的財産に関する相談も少ないらしい。地域資源の有効活用のアイディアはどこも似たり寄ったりとすれば、集客競争は楽なコトではない。地方が地方の文化習慣の中で豊かに暮らす方法は何かないのだろうか。

 住宅地を走っていると書店が閉店していた。最近は書店も大型化しているが、その店は昔ながらのこじんまりした佇まいだった。見慣れたはずの風景はこんな風に少しずつ変わって行くのだろう。
 別の書店に立ち寄ってみると書籍の配置換えをしてあるようだった。定期的に購読している本はないので気になるコーナーを見て回る。内容もデザインもその道に精通した方々が手がけているはずなのに物足りなく感じてしまうのは何故だろう。手に取ってみたい本があまりないように感じるのはインターネットのせいだろうか。圧倒的な選択肢の違いを感じてしまうのだ。書籍は著作者や出版社はもちろんのこと印刷会社や書店、流通関係者を含む業界が生計を立てるためのものである。ジャンル別の分類を眺めていたら、そんな当たり前のこと改めて実感した。それはおそらくインターネットと比較して考えたからだろう。書店ならでは、書籍ならではのものももちろんあるだろう。けれど、同様の内容がインターネットで無償提供されているものもあるだろう。知識から知識へ越境することも容易である。
 IT革命の頃、大きな影響を受けた業界や企業…個人があったと思う。その余波はまだ鎮まったわけではない。そればかりか新たにビッグデータや人工知能が胎動している。知の集合体が脅威となるのか頼もしい味方になるのかまだ見えていないのだ。

 様々に想いを巡らせながら自転車を走らせる。山には雪が降っているようだった。

 描き進めていたイラストをスキャニングしてデジタル彩色。
 原画は墨とインクのモノクロ。デジタル彩色によって水彩調の表現。
 原画がアナログなので気に入らない所があれば、デジタルでの修正も可能とは言え心情的にはボツにするか最初から描き直したくなる。


腕立て伏せ:108回

0 件のコメント:

コメントを投稿

漂泊

 2021年は変化が大きく波に揉まれるような日々だった。2020年が予想外の幸運に恵まれていたのかもしれない。その波に乗れないまま呑まれてしまったようだ。良いこととそうでないことが同時進行し、気持ちの切り替えに苦慮した。元々器用な方ではないからこう言う時には複数の人格の必要性を感...