普段からこれまで辿って来た道を振り返ることが少なくないのは、現状に満足していないからだろう。しかし、いくら振り返ったところでどこで何を間違ったのか答えは見出せない。むしろ必要だから間違ったのかも知れないとすら思える。少し前に「勝ち組」「負け組」という言葉が流行ったが、少し考えればそんな単純でないことは明白だろう。
たしかに他にも道はあったかも知れない。けれど、分岐点であってもなくても正解を考え続けて来たから、当時のボクにそれ以上の選択肢はなかっただろう。理解されなくても共感が得られなくても自分のことは二の次にして来たつもりだしそのことを後悔しているつもりもない。ただ、そのツケがたまってしまった。「本当は何がしたいのか」という大切なことを見失っていたのだ。
高校を卒業する頃、級友のひとりがボクの席まで来て内緒話をするように言った。
「漫画家を志すなら(キミが)選択した進路は正解だと思う。」
あれから何度も転職して社会に揉まれているうちに彼の言葉は淡く霞んで行くようだった。1ページどころか1コマすら満足に描けなかったボクは、漫画よりイラストや絵画のように1枚で完結する絵を描けるようになることが当面の目標になっていった。無論、それも容易ならざるコト。
何よりも続けることは難しい。しかし、続けることによって得られるものがあることを教わったのは、工場派遣の仕事だったかも知れない。描くことにもデザインすることにも自信を失くし、生活するために敬遠していた生産ラインでの作業に従事した。現場は予想に反し職人的で人間臭かった。もっとも、現場を離れて時間が経ってやっとそう思えるだけであって当時はそんな余裕もなく、ひたすら交替勤務のために体調の調整に苦慮し人間関係に苦悶していた。経験した人には解るかも知れないが、経験したことがないと想像すら難しい世界だった。そんな現場に一ヶ月、半年、一年と身を置いているうちに出来なかったはずのことが出来るようになり、真面目に取り組んでいれば不器用なボクでも少しずつ信頼されるようになっていたのではないかと思う。
「やればできる」ことの中には「続ければ出来るようになる」こともあるのではないだろうか。三日や一週間で姿を見せなくなる人もいた。そんな短期間でも決断出来ることが羨ましいと思ったこともある。けれど、やってみなくちゃ解らないこと。そして続けてみなくちゃ解らないことがある。
1年半前、ボクはまだ準備不足だった。そして漫画をメインでやって行こうとも思っていなかった。1ヶ月、3ヶ月、半年…時間を過ごすうちに本当にやりたかったことを思い出したのかもしれない。ボクにとって漫画は奥の手だった。奥にしまい込んでカビ臭くなっていた。するとある人に言われた。
「奥の手?最初っからそれしかなかったんでしょ?」
そう。それも解っていた。ただ…方向性に迷いながら遠回りしてきたのだ。
日本は職業選択の自由が認められているらしい。しかし、その実態はどうなんだろう。本当の意味で自由だろうか。サポート体制はどうなんだろう。競争の中で涙を呑む人がどれくらいいるだろう。終身雇用制度など実質的に崩壊してしまっているだろう。いつまでも自由主義社会は自己責任社会と断じていていいのだろうか。人が余っているなら足りない所へ回せばいいなんて言う安直な発想に振り回されて将来の夢や希望を描けるだろうか。
2015年。細々とながら漫画を続けて来た。楽しさよりも難しさの方を学んでいるような気がする。そしてたぶん…本当の厳しさをボクはまだ知らない。
腕立て伏せ:110回
2015年12月23日水曜日
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