2017年8月27日日曜日

黄昏

 快晴。湿度も低くなったようで爽やかな日になった。久しぶりにカメラを持って高原へ撮影に行こうかと思った。電車で行くことを検討してみたものの乗り継ぎが上手くいかないと時間ばかりかかってしまう。結局自由度が高いのは自転車なのだろうと思い自転車を出したのは昼過ぎだった。この選択が今日という物語の重要な設定になったようだ。
 外出前にリュックの荷物の重さを計ったら約6kg。腰への負担がやや心配だ。

撮影:2016/08/28

 徒歩なら4時間の行程とは言えずっと上り坂だ。自転車で半分の時間ならまずまずではないだろうか。前回行ったのはいつだっただろう。記憶を辿りながら体力を温存するコースを選ぶ。すると何度か立ち寄っていた産直の店が閉店していた。気さくな店長さんはどうされただろう。時は気がつかないところでも経過している。
 爽やかな日とは言え陽射しは強かった。スーパーで飲み物と菓子パンを買い込んでいたもののおにぎりにすればよかったと後悔。ペダルを踏む力が入らない気がするのだ。

 通りかかった山里で洗車する人に声をかけしばし立ち話。もう今日は帰ろうかと思い始めていたにも関わらずさらに上へ向かうことにする。記憶していたイメージよりずっと苦しい上り坂で自転車を降りて押して歩くスタイルになった。「もう止めよう。もう帰ろう。」と思っていると友人から電話があった。車で差し入れを持って同じ目的地へ向かうとのこと。何と言う有り難いことか。これでもう目的を途中で放り出すことはできなくなった。一人では出来ないことも他の人に支えられて実現する。

 バテバテになりつつ高原へ着いて久しぶりに会った友人としばらく話をした。空は黄昏て夕闇が迫る。ふと気がつくと遠くに悠然とした鳥海山が見えた。何年ぶりだろう。かなり距離があるのでまさか見られるとは思いも寄らなかった。既に暗くなりかけているが、重いだけで全く出る幕のなかったカメラを取り出してシャッターを切った。やがて肌寒くなったので帰宅することにした。

 帰り際、鳥海山の写真をもう一枚撮っておこうと自転車を止めた。
 すると道の向こうから一人の男性が歩いてくるのが見えた。何やらゆっくりとした足取りで足元がおぼつかない様子。身なりが作業服のようだったので公園の管理スタッフの方かと思ったら意外なことを言った。
「キャンプ場の方に電話あるかな?」
 管理棟は既に閉まっていたようだし公衆電話も確認していないので「わからない」と答えるとがっかりした様子で「下まで行かなくちゃダメか」とつぶやいた。
 下の方にある管理棟まで歩いて行くは結構距離がある。
 見れば右手に怪我をしている様子。事情を聞いてみると車が動かなくなったので歩いてきたらしい。連絡するための電話を探しているようだった。
 電話したい相手を聞くと電話番号の書いたメモ帳を取り出そうとしたはずみにバランスを崩してその場にひっくり返った。疲れているのかいつもそうなのかわからない。右手の怪我もそうして転んだのだろう。脳のトラブルを心配したものの受け答えはしっかりしている様子なのだ大丈夫だろうと判断。電話の相手先は車屋さんだった。家族に電話するわけではないということは一人暮らしなのかなと想像する。手持ちの携帯電話で代わりに連絡してみると迎えに来てくれるということだった。

 自転車でなければ気がつかなかったことだが、車ではないから送ってあげることは出来ない。夕闇が迫り自転車のライトだけではボク自身の帰宅も危ぶまれる時間になっていた。怪我したご老人を一人残してその場を離れて良いものかと後ろ髪を引かれながら暗い山道を駆け下った。
 夜道を自転車で走ると路面の凸凹や傾斜の判断が難しくなる。下りでスピードが出ているので判断を間違うと大変なことになる。何とか近所のスーパーにたどり着くと何故か顔なじみの店員さんに大きなピザをブレゼントされた。

 通りすがりとは言えまだ出来ることはあったのではないかと考える。帰宅して車屋さんに確認したところ二人で迎えに向かったとのこと。ご家族からも連絡が入っていたようなのであとはお任せするしかないだろう。

 苦しい思いをして山を登ったのは自分のためだと思っていた。しかし、実は誰かのためだったとすれば無駄な努力ではないばかりか報われたような気さえする。
 もしかしたら世界はそんな風に回っているのだろうか。


プランク:60カウント
腹筋運動(Vシット):60回
背筋運動:20回
腕立て伏せ
1回目:117回
2回目:116回

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